第3回 シンガーソングライター HoSoVoSoさん

例えば、すごく疲れている時に植物性アロマを身につけようとする行為。

私の中で彼の音楽を聞くことはその感覚に似ている。

『人って「感じる」「心が動く」「頭に感情としてくる」、「言葉になる」「伝える」っていう流れでコミュニケーションをとっていると思うんです。今の人って言葉にすごく頼っていると思うけど、音楽だったら「心が動いた」の部分で直接人に届けられると思う。多分、僕が大事にしているのはそこですね』ー HoSoVoSo

クリック一つで何でも情報を知ることができて、わかったつもりになってしまう現代社会で、今大切なことは何なのか。

彼の音楽と言葉がやさしく教えてくれました。



HoSoVoSo

1993年生まれ。三重県出身。シンガーソングライター。大学を卒業後、事務職の傍ら音楽活動を続ける。2014年1st アルバム「街」、2017年2nd アルバム「春が過ぎたら」、2019年3rd アルバム「春を待つ2人」をリリース。シンプルな歌詞に心地のよいメロディが聴く人の心を掴んでいる。2019年3月事務仕事を退職。音楽活動に専念する。 ライブハウスだけでなく本屋やパン屋、マルシェなど全国各地でライブを行う。森道市場2019に出演。

https://ho-so-vo-so.tumblr.com/

「ストーク」

― 音楽を始めたきっかけは何ですか?

きっかけは中学生の時に好きな女の子の気を引く為にですね。アコースティックギターを持って、BUMP OF CHICKENの「車輪の唄」をコピーしました。

― HoSoVoSoというアーティスト名の由来を教えていただけますか?

僕の本名が「太田雄貴」でフェンシング協会の会長さんと漢字が一緒なので、それ以外のペンネームを作ろうと思いました。当時は音楽の友達がほとんどいなかったので、一人で「細々」とやっていくしかないなと思っていたんです。

そんな時にぱっと目にした細野晴臣さんの「HoSoNoVa」というアルバムからとって名前をつけました。

― 影響を受けたミュージシャンはいますか?

小田和正さんです。小学校4年生の時にオフコースの「言葉にできない」をテレビCMで聞いて、そこからずっと小学生の時は聴いていました。今自分で歌を作るようになって、歌っていて気持ちのいいメロディとか、根っこには小田和正さんの感じがあるなと思っています。他には細野晴臣さん、高田渡さん、星野源さんにも影響を受けました。

― 影響を受けたミュージシャンをお聞きすると、上の世代の方が多いように思うのですが、それはご両親の影響だったりするのですか?

全然関係無いですね。親はオフコースのアルバムを一枚持っていただけです。自分で雑誌を読んで、この人はこの曲が好きなんだ、じゃあこのCD買ってみよう!と思ってCDショップで買うっていうのを繰り返していました。小田和正さんなどの曲は、聴いていて自分に馴染むという感覚がありますね。

― 山や峠といった自然を感じる詩が出てくることが多いなと思うのですが、何かルーツはありますか?

僕の生まれ育ったところから山が見えるんです。北を向くと多度山が見えて、西を向くと鈴鹿山脈が見えるんですね。朝日に照らされている山とか、夕日に沈む山脈を意識せずとも見続けていたので、自然とそういう詩が出てくるのだと思います。

― 「言い値CD」や「没曲供養ライブ」など、ワードがおもしろいなと思うのですが、その言葉はどのようにして生まれますか?

企画をお店に持っていった時に、アルバムに収録できなかった曲を供養してあげたいんですとお店の人に相談したんです。それをおもしろがってくれて、没曲供養ライブにしよう!となりました。パッと聞いたら意味はわかるけど、供養とか普段使わないような言葉ですよね。言い値CDはSNSのいいね!をいっぱいもらっているミュージシャンと共演したことがあって、僕もいいね!が欲しいなと思ったんです。いいね!がお金になる。あ、言い値があるなと。言い値で何を売ろうかな。あ、ライブ音源を売ろうという流れです。

― 「言い値CD」は値段が決まっていて、購入する人が曲を選べるんですよね。

そうです。お届けには今、2ヶ月程お待ちいただいています。私一人でやっているのでマンパワー不足ですね。でも、お客さんからしたら忘れた頃に届く手紙みたいなものかもしれません(笑)。

― HoSoVoSoさんの歌詞はシンプルだと思うのですが、言葉をたくさん知っている印象を受けるんですね。普段、読書はされますか?

本はスマートフォンを見る時間と同じくらい読みます。好きな本はかなり偏っていて、歴史小説が好きですね。色んな人が出てくるし、昔の話だから想像するしかない。現代物だと絵が浮かんでくるんですけど、歴史小説は読む時に自分の想像力をフル稼働させないといけないんです。でも、自分で想像できたらのめりこめるなと思って。僕は、司馬遼太郎さんと宮城谷昌光さんをよく読むんです。人間のケーススタディがすごくできるなと思っていて。この時代に生きたこの人は、こういう場面に出くわした時にどういう行動をしたのだろうか、っていうのがもう全部載っているんですよ。

似たような状況っていうのは僕が生きていてもよく起きていて、あぁそうかこの人はこの時こうしていたってことは、僕もこういう感じでやっていいのかなとか。そういうのを一つの選択肢として持てるというか。僕の場合はそういう本を読むと、自分の中で使える知識として定着してくれている感じがありますね。

― HoSoVoSoさんの曲は、人の暮らしに寄り添ってくれるメロディのように思うのですが、曲作りで大切にしていることはありますか?

僕が歌いたいように歌うということだけですね。誰かにこう言われたからとかじゃなくて。これは文字に起こさなくていいんですけど、人って「感じる」「心が動く」「頭に感情としてくる」、「言葉になる」「伝える」っていう流れでコミュニケーションをとっていると思うんです。言葉にすごく頼っていると思うけど、音楽だったら「心が動いた」の部分で直接人に届けられると思うんですよ。多分僕が大事にしているのはそこですね。

3rdアルバム『春を待つ2人』

― 人気があるのはどの曲ですか?

最近ライブ後にあの曲よかったねって言ってもらえるのは、「むかしぼくはまともだった」ですね。歌詞の書き方を今までと変えています。それまでは絵を描くような書き方をしていたんですよ。でも、これは私があなたに直接言うみたいな。

― 書き方を変えたのは何か理由がありますか?

きっかけはありましたね。昔僕は普通に働いて、恋をして、結婚して、家もローンを組むし、車も買うし、奥さんにがんばってもらって子どもを授かってみたいな。そういう普通の幸せを幸せだと思える人間だと思っていたんですけど、そうじゃないと思ったんです。歌詞を見ていただければわかると思うのですが、僕はずっと歌い続けたくて、できればそれ以外のことはしたくないんだってことに気づいたんです。そしてこの歌が生まれたという訳です。

― すごいです。歌が生まれるんですね。

苦しんだら歌が生まれるってことがわかっちゃったので、進んで苦しもうとしているところありますよね(笑)。でも、お客さんによって受け取りかたが全然違っていて、いや私普通の幸せを幸せと思っています、と言われることもあります。

― 今年の3月に音楽以外の仕事を辞められましたが、音楽で生きていこうと決めた時はどのような心境でしたか?

決めるまではすごく悩みました。具体的にこうやって生計を立てていこうと考えたのは一ヶ月くらいですが、それまでは悶々としていました。その頃、毎日昼間仕事をしてその後にライブをしての繰り返しで、体力的にも精神的にもギリギリだったんですよ。いつかどちらかを諦めなきゃいけない時が来る。身体が持たなくなるから。その時どちらを選ぶかという選択肢が出てきたので、迷わず音楽となりましたね。

友達の家がハムを作っている工房なんですね。泊まりに行くと美味しいチーズとかハムを出してくれて。そこに泊まりにいった次の日の朝、コーヒーを啜った瞬間に色々なことがストーンと腹に落ちて仕事を辞めると決めました。

― 音楽一本での生活になった今はどのような気持ちですか?

楽しいです。全ての責任が自分なので、思いきって色々やれることがわかってきました。僕が決めていいんだとか、自分に責任がくるとか、それが個人的にはすごく気が楽ですね。やりたくないことがほとんど無い。全部会いたいから会うし、歌いたいから歌うし、行きたいから行くし。すごくシンプルです。

― パン屋や本屋など、歌う場所があればどこへでも歌いにいくというスタンスが素敵だなと思うのですが、そのような形で音楽活動をしようと思った理由は何でしょうか?

それは、生活をする為ですね。僕みたいな何の後ろ盾も無い状態の人間が、音楽でお金を稼ぐにはどうしたらいいのだろうと思ったんです。今の段階ではCDを売るよりもライブの報酬をいただく方がよいという結論に至っていますね。

音楽だとCDを出して、ツアーを回って、そこで新しいグッズを出してみたいな流れがなんとなくあると思うんです。そうすると、そういう時しかお客さんは来てもらえないし、もったいないなぁと思って。普段から僕は歌っているから、普段の僕を見てほしいなという気持ちもありますね。お客さんと一緒に楽しみたいです。

幸田駅前書店にて

― 今年初めて参加された「森道市場2019」でのライブはどうでしたか?

楽しかったです。お客さんもすごく楽しんでくれていたので良かったです。

僕は色んな所を回りたいと思っていて。ライブを見たいですって言われたら、じゃあ歌いに行きます、というそういう関係性でいたいんですよ。全国の色んな所を旅したいなと思っています。その先に何があるかとかは全然わからないですけど、直接歌を届けたくて。僕はこういう人間ですよ、っていうのを歌だけじゃなくて出していかないといけないなと思っています。

― 思い出の一冊を教えてください。

宮城谷昌光さんの『子産』です。中学2年生の時に父がプレゼントしてくれて、何気なく読んでいたらどんどんはまっていきました。父は自己啓発本とか色々な本を渡してくれたのですが、僕が反応したのは歴史小説でしたね。漢字が多いのですが、前後の文章を読んでいると内容がわかるんです。宮城谷さんはどう生きるかということを他の本でも問いかけ続けているように思うので、そうやって自分と向き合い続けている人達の物語を読むと、自然と僕も背筋が伸びるような気がします。

― HoSoVoSoさんはすごく繊細な方ですよね。

僕はただの繊細な人間だと思います(笑)。アンテナが30本位あるんですよ。他の人が気付かないことに気付くが故に、他の人が抱えない苦しみとかを抱えちゃうから、そういう救いを音楽や本とかに求めるんだと思います。きっと。

― その気持ちはわかります。何かに救われたいって思わない人もいるんでしょうか。

僕の場合は、この人達わかってないのかなという瞬間は結構あるんです。それは小学生からずっと抱えていて。その違和感を感じないのが宮城谷さんの本を読んでいる時なんですよ。そう、こういうこと!みたいな。見えない、聞こえない、感じない人にはわからないものがわかっている。ただ、それが言葉に上手くできなくて、もどかしくてしんどい。多分、真面目に受け止めようとするんですよ。でも、受け止めるが故に見えてくるものも絶対あると思います。僕はそうやって受け止めて、ぶっ飛ばされたりしながら、こうやって歌を作っています。

「峠」


第3回 HoSoVoSoさん

思い出の一冊 『子産』 宮城谷昌光著 講談社文庫

2019年 6月 23日 


聞き手/写真/編集/文/ 藤川 加弥